石臼の簡単な説明です

石臼と使用する石材に付いて

以前の石臼は、その地方で産出される砂岩や安山岩の原石で作られていました

(私の隣町の栖本町でも以前は有名な栖本石と呼ばれる変性安山岩が切り出されていました)

石臼の性能の一つ摩耗に対しては安山岩はすり減りやすく、現存する石臼のすべてが摩耗し目立てがハッキリしていない状態です

ダイヤモンド工具がない時代は、柔らかい安山岩系でしか加工が出来なかったために花崗岩系の石臼を作る事が出来ませんでしたが 現代の石材加工技術はダイヤモンド工具を使用し、非常に固い石材も難なく切断、研磨が出来るようになり、柔らかい安山岩系を使う必要がなくなりました

石材加工の工具の進化に伴い石臼の原石はより摩耗に強い花崗岩になったのですが、いまだに安山岩系を最高の石臼だと盲信している石材店さんが存在しているのも事実です


石臼の目的である粉にする事から考えると、使用される原石による差はまったくありません

原石による違いは、擦り減り方の速度と外観の風合い程度です

私は目立て直しの可能性が極力少ない花崗岩(御影石)が石臼に最適だと考えます

序文

最初にお断りしますが、石臼の内部で材料が粉になりつつある状態=現象を動的に直接見た事はありません

上臼をガラスで作ると、その状態が目視出来ると思うのですが・・・・

ですので以下の内容は、様々な材料を挽く依頼を受けて特注品を制作し、20年近く石臼に接して来た経験値のような内容です


ついでなので、様々な材料をちょっとだけ紹介します

アフリカのウガンダでチョコレートを作るためのカカオと砂糖を挽く石臼(現地では電力供給が不安定なため、あえて手回しを3台)

ピーナッツバターを作るためのピーナッツ専用石臼

オリーブ茶を飲むためのオリーブの葉専用石臼

バリ珈琲用の珈琲豆を微粉末に挽く専用石臼

水に浸した大豆を極力水を加えずに挽く濃厚豆腐用石臼

抹茶塩用に岩塩を挽く石臼

ガレット用に蕎麦を粗びきにする石臼

南米ペルーで現地産の珈琲豆を石臼挽き珈琲としてパッキングする業務用の手回し臼(現地は電力の供給が不安定で電圧も微妙)

紅茶を微粉末にする石臼

珈琲豆を一度叩き潰して内部の渋皮?を全部取り除いてから挽く珈琲石臼

などなど、様々なサンプルを挽く石臼を制作してきました

石臼で挽く材料に付いて

石臼は材料を粉にする道具ですが、材料によっては無理な物もあります


挽く事が可能な材料(石臼の内部を移動出来る材料)

完全に乾燥出来ている物

逆に十分な水分、又は十分な油分を含んでいる物


挽けない材料(石臼の内部で移動出来なくなってしまう物)

上臼の物入れ穴に入らないサイズの物

湿っている材料

中途半端な油分を含む材料


経験上原因は解りませんが臼の内部で張り付いてしまい挽けない材料

砂糖単体(岩塩は挽けます)

黒ごま(白ごまは挽けます)

カシューナッツ(ピーナッツは挽けます)

石臼の直径、重量(高さ)に付いて

昔の石臼は直径がおよそ1尺(30㎝)で厚みが4寸(12㎝)で作られていました

理由は良く解りませんが何でも挽けるように、人が持ち上げられる最大の重量で作られたと思います

米粉を挽く場合は米は固いので、そのくらいの大きさは必要ですが、麦は少し柔らかいのでそこまでの大きさは必要ありません

蕎麦の場合も同じくそれ程の大きさは必要ありません


ではどのような考え方で大きさを決めるのか?

複雑な問題ですが、まず大きさを直径と高さ(重量)に分けて考えます

直径が大きいと作用する時間が長くなります、微粉末になりやすいと言う事です

高さが高いと圧力が大きく微粉末に有利です

逆に小径で高さが低いと作用時間が短く圧量も小さいので微粉末には不利です

大径と小径の差は挽きの影響以外にも、石臼の内部に残ってしまう仕掛途中の材料の量もあります

大径は良く挽けますが、作業終わりの材料のロスも多くなります


では大径で高さが低い組み合わせと、小径で高さが高い場合の組み合わせはどうなるのか?

単純に説明すると掛け算ですので有利と不利の中間になります

実際に制作する場合は材料のロスを考えて直径を先に決め必要な重量を確保するために高さを決めます

例えば一度に大量に挽く場合は最後に残るロスは全体量に対しての割合は小さくなるために大径とし能率を上げます

逆に一度に数十グラム程度を挽く場合のロスは割合が大きいので極力小径で高さを高く重くします


下臼に付いては上臼の回転を受け止めるのに必要な重量が条件です

デザイン優先で下臼の高さを低くして木製の受けと組み合わせた石屋さんの製品もありますが、下臼を左手て保持する必要があり関心しません

上臼上部の物入れ穴の大きさ位置に付いて

物入れ穴の位置は臼に内部のどこに材料を投入するかを意味しています


下臼から出ている心棒の受けと共用して中心部に物入れ穴がある臼もあります

この場合は円の中心部から材料が入るので石臼内部での作用時間が最も長くなります

あまり良くない点は、心棒の直径と中心穴のクリアランスの調整の難しさと心棒の摩耗対策です

さらに仕掛途中の材料が石臼内部全体にが多く残りロスが多くなります


私は上臼の材料投入穴は単独で設計しています

中心に近い程作用時間が長くなり、外周に近くなるにしたがい作用時間は短くなります

微粉末にする場合作用時間が長いほうが有利なので穴は中心に近くなります

ただし仕掛途中の材料の量は穴が外周に近くなる程少なくなります

(材料は中心から外周へ動く=押されていく)


私は作用時間の確保から中心点から15mmとしています

上臼上部の物入れ穴の直径に付いて

穴の直径の決め方ですが、まず穴の内部で材料が詰まって落ちなくならないサイズ

臼の内部にどのくらいの量を供給するかも穴の直径に関係します(のみ口の形状も関係するのですが)

大きいと基本的に材料が多く臼の内部に供給され、これが多すぎると微粉末になりません

小さいと供給が少なくなり微粉末には有利ですが、能率が落ちすぎる可能性があります

悩める点です

上臼下部ののみ口に付いて

石臼内部に最終的に材料を供給する部分、物入れ穴の一番下の部分です

この部分の形状に付いての説明はとても言葉(文章)では無理ですが一応書いておきます


深さ・幅・角度 いろいろ要素があるので分けて考えます


深さを深くすると石臼の内部に巻き込まれていく材料は多くなります

幅を広くすると同じく多くなります


角度(長さ)は別の意味があります

角度が急な場合(のみ口が短い)材料供給は少なくなります

最初の粉砕に上臼の重量が有効に利用出来ません

感覚的には右手での回転の力で材料を押し割る感じです

角度が緩やかな場合(のみ口が長い)材料投入は多くなります

材料が石臼のより内部で粉砕されので、上臼の重量が有効に作用します

軽く回せるような感覚です


実際の制作段階では、この部分の決定・調整が最も大変で経験と勘です

深さと角度を浅くして調整を始めるのですが、試験挽きをしてはちょっと深くする

さらに試験挽きをして深くするの繰り返しです

この時の目標は軽く回せて目標の粒状になる事ですが、残念ながら正解はないので私の感覚だけです

どの時点で調整を終わりにするかを毎回悩みます、深く調整しすぎた瞬間に粒状が粗くなり元には戻せなくなります

調整しすぎの場合は、目立て全体を削り落として最初からやり直しになります

石臼を回すスピード

ついでに石臼を回すスピードに付いて書きます

出来るだけ一定を保って下さい

極端に早いと良く挽けません、粗くなります

極端に遅いと疲れます?

私の石臼は私の回すスピード?で設計してあるのでご了承下さい


石臼の目(溝)の意味

よく言われるのが目(溝)で挽いているので、石臼はせん断作用を行っている

実は、誤解で材料が目(溝)の中にある時にはあまり何も起こってはいません

材料は溝以外の場所で石臼に押しつぶされたり、材料同士がぶつかり小さくなったりしています

溝は材料が流れていく(押され行く)方向の案内をしている程度と考えて下さい

もちろん溝の深さ幅は粉の隠れ場所なので微粒子が必要な場合は非常にシビアな深さ幅にする必要はあります

珈琲石臼の場合は微粒子にならないように深さと幅は特別に設計してあります